「うたの日」投稿作品(2016年9月)

2016.9.2「休」
夏休みの記憶がのこるサンダルの模様にうっすら焼けた素足に

2016.9.4「切」
玉ねぎの切り方、服の畳み方 摺り合わせながら家族になった

2016.9.5「国語」
選択肢の三つ以外の解答がふわふわ舞い散る国語のテスト

2016.9.11「もっと」
しあわせになりたいですと呟けば街灯が少し明るさを増す

2016.9.12「洗濯」
洗濯機回れよ回れ一日は五百ノットで走りゆく船

2016.9.13「溝」
侵入を拒む溝としてよそゆきの笑顔で私を受け流す人

2016.9.21「核」
核という文字の向こうに幾億もの「骸(むくろ)」のすがたを見る人であれ

2016.9.22「魔法」
午後三時グリッシーニを杖にしてなりきってみるハーマイオニー

2016.9.23「かわいい」
にこにこと支柱を握り二歳児もテント撤収手伝うつもり

2016.9.24「丘」
あの丘を越えたら見えるこの町をとぷりと包む海の輝き

2016.9.25「彼」
彼との距離計りかねてるお土産の小さな金の東京タワー
スポンサーサイト

折り句商店街

折り句を作ってみたくて、2016年8月28日のうたの日のお題「蝉」に「せみしぐれ」で折り句を試してみていたのですが、29日のお題は「商店街」でした。そこで、「しょうてんがい」を折り句で作って投稿してみました(下に挙げた二つ目の歌です)。折り句であることを気づいてもらえたかどうか、よくわかりませんでしたが…。
これをきっかけに、折り句で「商店街」を表現できないか…と考えてみました。自分で決めたルールは、句の一つ一つが「しょ」「う」「てん」「が」「い」で始まるようにすること、そして、商店街の歌として意味が通ることです。
歌の巧拙はともかく、折り句を作るのはとても楽しかったです。まだまだ作れそうな気がします。


折り句「商店街」

商店街?家(うち)から理容店をすぎ眼科の角を行けばすぐです

ショーウィンドウ映る夕日が店内の硝子細工の色をはじいて

商店街海の日セールの店舗にはガッツが売りのイケメンバイト

醤油、みそ、うずらのたまごと天ぷらとがんもも買っていつもの会話

ショール巻き噂話の店主たちガールズトークは今も健在

「商売はうちのおやじの天職だ!」がははと笑っているおやじさん

奨励賞受けたお菓子は天下一 ガトーショコラといちごのショート

「正面から打ち明けたのにてんでダメ…」頑張れと奢るいちご大福

書店では売れないままの店頭のガイドブックが色褪せている

小説と宇宙の本と天文の学習図鑑をいっぺんに買う

商店街裏の倉庫の転写機がガリ版の時代今に伝える

商売替え売り払われる店舗ではガレージセールがいま始まった

ショーウィンドウ映る夕日も店内の硝子細工もいつか見た町

題詠100★2016 011~015

011:平
平坦な人生はなく道のりのあちらこちらで石につまずく

012:卑
卑弥呼らが見ていたはずの青さからかくも遠ざかる平成の空

013:伏
伏せられたカードをまた一枚開けて報道されている「新事実」

014:タワー
ふわふわのシフォンのバレッタワーキングウーマンじゃないわたしになる日

015:盲
酔わされて盲判押した亡き祖父の逸話がまた出るまた聞いている

「うたの日」投稿作品(2016年8月)

2016.8.1「雫」
かなしみをひろいあつめてそのふちにひかるしずくをしあわせとよぶ

2016.8.10「田舎」
列車は日に十本だけでその代わり海まで続く空が見えます

2016.8.11「自由詠」
やわらかく日が暮れはじめ木々たちは眠りに落ちる前の静けさ

2016.8.12「油」
給油口かりりと閉める これからの400kmも無事でありたい

2016.8.14「タオル」
水色のタオルケットがはためいて空へと帰りたがっています

2016.8.16「空」
さりさりと光りかがやき一日に別れを告げる西の雲たち

2016.8.21「ジャスコ」
一回も行ったことがないはずなのに歌えるジャスコのCMソング

2016.8.24「たられば」
「あのときに、こうしていれば」を組み上げてきらきら光る硝子のお城

2016.8.26「開」
人生は一冊の手帳 開かれてまた閉じてゆく日々のいとしさ

2016.8.27「トンネル」
何度でも生まれ直せる 息詰めて産道のようなトンネルをゆく

2016.8.28「蝉」
蝉たちの短い恋のシンフォニー群青の空に烈々と鳴る

2016.8.29「商店街」
ショーウィンドウ映る夕日が店内の硝子細工の色をはじいて

2016.8.30「パズル」
もう一つ、唐揚げ入りそうだけど…弁当づくりはパズルの如し

題詠100★2016 001~010

テーマ「学校図書館」

001:地
大地震(おおない)や竜巻の惨まざまざと伝え続けている『方丈記』

002:欠
背表紙の欠けた本たちこんなにも愛されている「かいけつゾロリ」

003:超
超快適マスクに守られ本日も埃まみれの書架と闘う

004:相当
相当な歳月だろう本棚にこの乱雑さが降り積もるまで

005:移
統廃合された校から移管した本にしずかに蔵書印押す

006:及
柔らかに波及していけ図書室から放たれる本のあかるいひかり

007:厳
冷厳な決意を持って捨てていく二十年前に愛された本

008:製
製本の安易さ憎しぽろぽろと次々外れるゾロリのページ

009:たまたま
今年度たまたまここにいる者として立てている整理計画

010:容
本棚の容量超えた本たちを選んで捨てる仕事さびしき

新たな百首に向けて

題詠blog2014で短歌を始め、次の2015にも参加させていただき、二年続けてとても楽しく有意義な時間を過ごしました。2016年は「題詠100★2016」として、ブログではなくFacebookでの開催となったため、残念なのですが、私には参加しにくくなってしまいました。
そこで、主催の五十嵐きよみ様にお願いして、題詠100★2016の題だけをお借りして、このブログで歌を発表させていただくことにしました。今年も百のお題に挑戦できるのを楽しみながら、マイペースで歌をつくってみたいと思います。

「うたの日」投稿作品(2016年7月)

2016.7.1「牙」
ざくざくと歯を磨きおりわたくしに残されているわずかな刃(やいば)

2016.7.6「指」
柚子餡をのの字につつむカステラから解き放っていく吾子の指先

2016.7.9「落」
「効率」からこぼれた時間 病院の待合で読む村上春樹

2016.7.10「自由詠」
しょわしょわと炭酸のごと沸き上がる蛙の声に洗われる夜

2016.7.14「スーパー」
しろじろとあかるい夜のスーパーで幸せだけが売られていない

2016.7.15「テーブル」
おしゃべりが咲き続けてる女子大のカフェのピンクのテーブルクロス

2016.7.16「赤」
夕暮れが深さを増してゆく街でテールランプはいよいよ赤く

2016.7.19「閉」
病んだ眼をそっと閉じつつバス待てば頬撫でてゆく初夏のそよ風

2016.7.24「散歩」
長い長い散歩のような午睡からゆらゆら目覚めていく夏の午後

2016.7.25「ヒマワリ」
びっしりと種を太らせ向日葵が腕いっぱいに抱きしめる未来

2016.7.27「曲」
山道は折り畳まれたパノラマでカーブするたびに緑が開く

「うたの日」投稿作品(2016年6月)

2016.6.10「自由詠」
軽やかな風吹き抜けて少女らのパフスリーブに夏が来ている

2016.6.16「淡」
薄桃に暮れゆく空をひろびろと映して棚田は淡くかがやく

2016.6.17「液」
目の奥の液晶板がうす青く光り続けて眠れないまま

2016.6.23「修学旅行」
三連続で大凶引いた渡辺が伝説になる修学旅行

「うたの日」投稿作品(2016年5月)

2016.5.4「カフェ」
少しでも優しい私になりたくてカフェオレ色のセーターを着る

2016.5.6「ジュース」
しゅわしゅわと炭酸のように立ちのぼる霧雨の午後を飲み干している

2016.5.8「母」
できたての「かたたたきけん」に吾子の字で記されている「きげんえいえん」

2016.5.14「声」
声変わり終えバスパートの歌声が音楽室に深く響きだす

2016.5.25「車」
温かなけもののような顔つきで家路を急ぐマイカーの列

2016.5.30「遥」
遥かなる過去と未来の結び目のひとつとしてある私のいのち

「うたの日」投稿作品(2016年4月)

2016.4.1「嘘」
エイプリルフールで始まる一年がはにかみながら瞳を上げる

2016.4.5「家族」
やはらかな芯でありたい子どもらの洗濯物を畳みゆく時

2016.4.15「右」
老いるとはかくも哀しき左折サイン出して右折する老爺の車


「うたの日」投稿作品(2016年3月)

2016.3.1「時」
くるくると子らの心を包みゆく家族の時間(とき)はバウムクーヘン

2016.3.2「イヤリング」
イヤリングばちんと留めるはつなつの海に飛び込むような決意で

2016.3.4「片想い」
教室に降る陽のなかで君のシャツだけが真白くかがやいていた

2016.3.6「梅」
梅の花咲いたことすら気づかずにただ駆け抜けた震災の春

2016.3.10「自由詠」
溶け残る雪のかたちのうつくしさ中州に抱いて川は流れる

2016.3.11「奥」
身の奥に棲みついている 福島での家族の日々が見ていた夢が

2016.3.12「()(パーレン)」
穴埋めの括弧の広さが君たちに答えをそっと囁いている

2016.3.13「王」
モナ王をさくりと割ればサンダルの小さな手と手に夏があふれる

2016.3.14「男」
いたずらを繰り返しては男子たち教師の反応楽しんでいる

2016.3.29「分」
フレームのかたちにきっちり切り分けたレンズで埋まる眼鏡ショップは

2016.3.31「丸」
丸ごとの私の中から私でさえ知らない私を取り出すあなた

「うたの日」投稿作品(2016年2月)

2016.2.1「剣」
ごてごてと金で飾った刀剣にヤンキー文化の源流を見る

2016.2.9「あだ名」
年一回賀状の中で行き来する子どもの頃の互いのあだ名

2016.2.15「靴」
昨晩の睡眠四時間ランニングシューズふわふわ私を運ぶ

2016.2.16「藍」
ぎっしりといのちの重さに固まった花甘藍(カリフラワー)の球(たま)切り分ける

2016.2.29「うるう日」
二月からぽろりとこぼれた一日が四年待ちわびた瞬間が来る

「うたの日」投稿作品(2016年1月)

2016.1.9「弓」
それぞれの角度で揺れる弓たちが紡ぎだしていくワルツの調べ

2016.1.10「活字」
極太の角ゴシックで黒々と刻まれ続ける2011

2016.1.11「二十歳」
晴れ着着てはしゃぐ笑顔がいつまでも護られる国でありますように

2016.1.13「泡」
きらきらと泡のベールを引きながらペンギンたちは水中を舞う

2016.1.14「明」
通知表電子化されて先生は明朝体で我が子を評す

2016.1.19「低」
重低音じわっと沁みるあの声が今日もラジオで囁いている

2016.1.20「雪」
アイロンを滑らせてゆけまっさらな雪原ひろがるブロードのシャツ

2016.1.21「木」
一本の木だった頃の思い出を箸たちがそっと囁いている

2016.1.28「切」
貼り終えた切手の脇に舞い降りる二円切手の真白なうさぎ

2016.1.29「ルール」
他人との差異に気づかずマイルール振りかざしてた思春期の棘
(過去詠:題詠blog2015「異」で詠んだもの)

2016.1.30「線」
この町の空を縫い終え電線は山を伝って東へ急ぐ

2016.1.31「斜」
まっすぐでいたいのだけど撮り終えた写真がどれも傾いている

「うたの人」(2015年10月〜12月)

2015.10月 うたの人「時々」
忘れられないほど見事なフィナーレを時折見せてくれる夕空

2015.11月 うたの人「幸」
あたたかく時は満ちゆくアドヴェントカレンダーひらく朝の清しさ

2015.12月 うたの人「数」
繰り返す約束のようになめらかな対数螺旋で貝は伸びゆく

「うたの日」投稿作品(2015年12月)

2015.12.2「ブーツ」
ぎっしりとお菓子を詰めた紙製のブーツがひしめくスーパーの暮れ

2015.12.3「コート」
襟元から外されファーはひっそりと箪笥の中でけものに還る

2015.12.5「洗」
誰一人手伝ってなどくれないと食洗機には愚痴も詰め込む

2015.12.8「定規」
反転と円環幾度も繰り返しスピログラフに咲き出す宇宙

2015.12.9「DNA」
彼方へと螺旋は運ぶわたくしの瞳の色を指のかたちを

2015.12.16「紅」
たっぷりと紅葉を抱き山々は数億回めの秋に華やぐ

2015.12.20「近くの公園でいちばん大きな樹」
焦げ茶色の流星ぽたぽた落としては紅葉葉楓(もみじばふう)は空を見上げる

2015.12.21「リモコン」
諍いの原因だったリモコンがやっと出てきて時(とき)巻き戻る

2015.12.22「遅刻」
「ちょっとだけ遅れていくのがマナーよ」とパーティードレスの裾を揺らして

2015.12.29「肉」
「一日中チキンを売っていました」と笑う二十歳のクリスマス・イブ

2015.12.30「一番印象に残ってる先生」
子どもらの発想すべてお見通しにやりと笑う赤塚先生

2015.12.31「大晦日」
黒豆に火を入れていく無事一年この台所に立ててよかった

「うたの日」投稿作品(2015年11月)

2015.11.2「エレベーター」
エレベーター下降を終えてわたくしの芯が僅かに遅れて届く

2015.11.3「大学」
できたての大学芋に次々と子らの手が伸びて秋は深まる

2015.11.4「県」
方言の細かな違いで盛り上がる県職員の新人研修

2015.11.5「たまご焼き」
くるくると巻かれた黄色い渦巻きがおべんとうばこを明るく照らす

2015.11.7「並」
端の木が今年も最初に色づいて銀杏並木の秋が始まる

2015.11.13「道」
避難者を置き去りにして次々に再稼働の道開かれてゆく

2015.11.14「はさみ」
じゃっきりと重い音立てて裁ちばさみ布地の原を切り分けていく

2015.11.21「全校生徒600名の前で一首」
きみたちが600通りの声をして今歌いだす校歌斉唱

2015.11.22「結婚」
二十年経っても知らぬことがありそれでも同じ海を見ている

2015.11.23「イチョウ」
校庭の銀杏は黄金(きん)を振り撒いて今年も子らの遊びを照らす

2015.11.26「好きだった教科」
手順よく進めていった証明がかちりと決まる瞬間が好き

2015.11.28「消」
ぱんぱんと叩かれクラスの一日が黒板消しから旅立っていく

題詠blog2015 百首まとめ

題詠blog2015に参加した作品をまとめました。

001:呼
題一つ一つが想い呼び覚まし私は百の私と出会う

002:急
急カーブ続く山道にも慣れてやっとこの地の母ちゃんとなる

003:要
要点はどこにあるのかいつだって「作者の気持ち」の答え間違う

004:栄
栄螺堂(さざえどう)上って下りてエッシャーの騙し絵の中歩くひととき

005:中心
ずれていたこころの中心然るべき場所に戻して歩き始める

006:婦
「婦」のつく語に「売春」に絡むもの多くおんなの苦難の歴史を思う

007:度
「雨降るよ」四度繰り返し四人の子ひとりひとりに傘を持たせる

008:ジャム
「あんこはね豆のジャムだね」つぶあんをパンに塗りつつ子と話す朝

009:異
他人との差異に気づかずマイルール振りかざしてた思春期の棘

010:玉
青春をいくさに奪われ父たちが戦地で聴きし玉音放送

011:怪
今週も白いマントを翻し怪盗キッドは闇に消え去る

012:おろか
通りゃんせ歌ってとおろかりそめの恋でも君に捕まりたくて

013:刊
朝刊が新聞ばさみに綴られて図書館に今日の風吹きはじむ

014:込
(コンラート・ローレンツ『ソロモンの指環』より)
目の前の人間を親と思い込み慕う雛鳥の記録愛らし

015:衛
わたくしを回る四つの衛星の如き子らとの日々愛おしむ

016:荒
子どもらに声を荒げた日の午後は優しいジャズが胸に沁みこむ

017:画面
天球の大画面には星々が今日も描き出す神話の世界

018:救
救急車駆け抜ける街 道譲る車の列は祈りのかたち

019:靴
新しい靴に五月の光映えAllegrettoに駆け出すこころ

020:亜
分類上、ヒト亜科ヒト族ヒト亜族ヒト属ヒトのわたくしである

021:小
小石やら紙やら錆びた金具やら出てくる出てくる子らのポケット

022:砕
かんこんと叩き落とされ砕かれて氷柱(つらら)の欠片雪に光れり

023:柱
軒下の巨大な氷柱(つらら)曲がり来て硝子窓へと爪伸ばしおり

024:真
真夏日の標識のようにすっくりと向日葵の花並び立つ庭

025:さらさら
さらさらと砂は落ちゆく永遠に約束の時間行き来しながら

026:湿
給食の白衣にアイロン強く圧しぱりっと湿り気追い出してゆく

027:ダウン
フリースもダウンジャケットも脱ぎ捨てて子らは春へと駆け出していく

028:改
改札に鋏を鳴らす音が消え機械は平らな切符吐き出す

029:尺
計算尺ぎりりと回し若者は宇宙を統べる法則探す

030:物
立春を過ぎ三割に下げられて干支の置物まだ売られおり

031:認
電気、ガス、戸締まり 指差し確認は出かける前の小さな儀式

032:昏
昏々と眠れる母の病室に言葉少なき父とわたしと

033:逸
渾身のキックがゴールを右に逸れPK戦は終わりを告げる

034:前
前向きに生きることしか許されず玩具(おもちゃ)の汽車の如く壊れゆく

035:液
機械にもツボがあるらし揉みやれば液晶画面が点くプリンター

036:バス
汚染地を離れるバスに乗ったきり四年故郷に帰れない子ら

037:療
我の眼に治療のレーザー丹念に撃ち込む女医の瞳美し

038:読
古本に引かれた線にくっきりと読み手の興味の在処が浮かぶ

039:せっかく
せっかくのお土産だからと断れず飲み込むケーキはずしりと甘い

040:清
清冽な水の青さで読手(どくしゅ)の声広がっていくかるた会場

041:扇
扇風機にワンピースの裾かぶせては風通らせて笑ってた夏

042:特
子育ての特等席にいるのだと思えば辛さも目減りしていく

043:旧
旧式の炊飯器一つ貰い受け一人暮らしの始まりとなる

044:らくだ
生涯をらくだと過ごす遊牧の老婆の笑顔砂漠に光る

045:売
「ママ、来て!」と売り子二人に誘われてお店屋ごっこの上客になる

046:貨
おはじきの硬貨並べて青いのは百円ですと子らは言いたり

047:四国
子はくるりと餡だけ残しカステラを食べおり四国銘菓のタルト

048:負
正の数負の数足しゆく危なげな鉛筆の先を見守っている

049:尼
涼やかに光を湛え中世の尼僧が遺した聖歌が響く

050:答
あの春に出した答えのその重さ抱えたままで五年目が来る

051:緯
包丁で緯線と経線刻まれて小さな地球になるメロンパン

052:サイト
サイトウの「齋」の字覚えられぬまま部品をばらばら並べては書く

053:腐
ゆっくりと豆腐に焼き色つけていく時間も旨味になれ、チャンプルー

054:踵
すり減った靴の踵よあの街にもこの町にも散るわたしのかけら

055:夫
メールでのやりとりだけが続くとき夫は少し透明になる

056:リボン
三等の黄色いリボンはためかせ応援席へ吾子は駆けゆく

057:析
苦しさの澱みの中で鈍色に析出していく結晶がある

058:士
なめらかな右側の肩に宝永山を乗せた富士がわたしの富士だ

059:税
増税をごまかすような愛らしさエゾユキウサギの二円切手は

060:孔雀
漆黒の屏風に浮かぶ刺繍絵の孔雀の羽は黄金(きん)に燃え立つ

061:宗
迎え火を焚かぬ宗派もあるのだと嫁して初めて知る盆休み

062:万年
事務用の万年筆で端正な文字書く女性(ひと)の優美忘れず

063:丁
三ヶ月ぶりのあなただ 開けたての珈琲豆を丁寧に挽く

064:裕
久々にひとりの時間を楽しんで余裕というのはこういうことか

065:スロー
鮮やかなフリースローでゴミ箱にシュートを決めて今日も快晴

066:缶
サイダーの缶をぷしゅっと開けるとき君の手元に溢れ出す夏

067:府
駆けあがる仔犬のかたちの京都府の右足の先に君は住んでる

068:煌
華やかに煌めくジュエリー詰め込んで家庭画報がずっしり重い

069:銅
銅線の橙赤色が特別な輝きだった理科の実験

070:本
「母さん」は本日休業 寝そべって子らと映画を観る日曜日

071:粉
粉砂糖ふわりとかけてお洒落したシュークリームがすまして並ぶ

072:諸
諸事情は話せないままやんわりと外食の誘い断っている

073:会場
ペンライトさざ波の如く色を変え光揺れやまぬライブ会場

074:唾
唾棄すべき言動ばかり報じられ有象無象が跋扈する国

075:短
四店を最短ルートで回りゆく買う物リストを羅針盤(コンパス)にして

076:舎
出荷日の迫る子牛にもう一度会うため吾子は牛舎へ急ぐ

077:等
焼きたてのピザを大きく六等分に切って家族の揃う幸せ

078:ソース
ジーンズに洗いざらしのカットソースイート過ぎない恋が始まる

079:筆
ぼろぼろの筆箱気にせず使ってる娘はかつての私のようで

080:標
その足環に課せられた意味知らぬまま標識鳥は飛び立ってゆく

081:付
少女らのあこがれ映す歴代の『りぼん』の付録の本眺めおり

082:佳
「佳きことの多き一年を」元旦の賀状に滲む友の優しさ

083:憎
もう誰を憎めばいいか分からずに原発事故後の世界を生きる

084:錦
紅白の金魚を二匹泳がせて錦玉羹に透き通る夏

085:化石
うつくしい化石のような思い出が記憶の地層に蔵(しま)われている

086:珠
数珠つなぎにちょこちょこ並ぶ一年生少し曲がった整列をする

087:当
速い子と丁寧な子と 掃除にも個性出てくるお風呂当番

088:炭
炭酸水はじける速さで夏がゆくあなたが父でいられる時間

089:マーク
ミシシッピの水面に永遠(とわ)の冒険を刻んでいったマーク・トウェイン

090:山
山肌に立ちのぼる雲に洗われて木々の葉はまた色を深める

091:略
「前略」と書き出してみればするすると嘘並べられる大人になった

092:徴
回復の徴候見えて軟膏を傷に塗る手がちょっぴり弾む

093:わざわざ
強風の指にかき回され続けざわざわざわめきやまぬ芦原

094:腹
このお腹にみんな入っていたのにね 子どもは次々親の背を抜く

095:申
国民の異議申し立てに耳貸さず右へ右へと舵は切られる

096:賢
幼子は時に賢者ですっぱりと本質を突く一言が出る

097:騙
年寄りを騙す健康機器の店ぱくりと戸口開けて待ちおり

098:独
反省とはどうあるべきか日独の差異がするどく浮き上がる夏

099:聴
聴く度に元気になれるその声に逢いたくてまたラジオをつける

100:願
贅沢な願いではないはずなのに 子を安心して育てることは

完走報告(文乃)

完走しました。
昨年に続いて二回目の参加でしたが、昨年以上に難しいお題が多く、もう完走は無理かと思ったこともありました。巧拙はともあれ、なんとか百首をかたちにすることができて、ほっとしています。
中にはどうしても思いつかずに苦し紛れで作った歌もあり、もう少し時間をかければ良かったかなあと反省しています。
今回も楽しかったです。五十嵐きよみ様、皆様、ありがとうございました。また、選歌をしてくださった西中眞二郎様やさくら♪様のブログにはいつも励まされ、同時に、選歌された他の方々の歌に改めて触れることができて、勉強になりました。ありがとうございました。

100:願(文乃)

贅沢な願いではないはずなのに 子を安心して育てることは

「うたの日」投稿作品(2015年10月)

2015.10.8「ビル」
初めての独りの部屋はトーキョーのビル街の海に漕ぎ出す小舟

2015.10.11「笛」
次々に船の汽笛が鳴り出してふるさとの夜に新年が来る

2015.10.17「見」
物干し台登りつめたる雨蛙おまえそこから何が見えるの

2015.10.18「封筒」
甲状腺検査を知らせる封筒が宣告の如く吾子らに届く

2015.10.19「困」
友達を困らせ笑う子の中に深い寂しさもあるかもしれず

2015.10.20「ポケット」
ポケットから次々お話取り出して星新一はくすりと笑う

2015.10.23「ジャム」
二種類のジャムを並べてささやかな御馳走とする朝の食卓

2015.10.24「結」
やわらかな指に玉結び教えつつ子とクッションを作る土曜日

2015.10.25「別」
町内の分別ゴミの当番が黙ってそれぞれスマホ見ており

2015.10.26「溶ける」
ほろほろとわたしの輪郭溶けてゆき静かな湯船に呼吸が浮かぶ

2015.10.27「続」
続きはまた昼寝のあとで ムーミンの本は雨の日に読むのが似合う
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。